死のカードがもたらすもの

 誕生を人生の一部分として受け入れるように、死をも受け入れるということが、真に生きるようになるということである。ユングは言う。「生きることを望まないということは、死ぬことも望まないということと同義である。生死と死にゆくことは同一の曲線を描くものである」と。そして彼はこうも言っている。「この曲線に沿っていかない者は誰であれ、宙ぶらりんのままで無感覚な状態のままに留まるだろう。中世からこの方、生きながらいつでも死ぬ準備ができている人のみが、本当に生きたといえる人であった」

…『ユングとタロット 元型の旅』
新思索社 刊
サリー・ニコルズ 著
秋山さと子/若山隆良 訳

……

カルチャーセンターでの中級講座にあたるリーディングのクラスでは12月の最終回に生徒さんには一人ひとり個人でイヤーリーディングを練習していただきました。

2021年はご自身にとってどんな年になるのか、1月から開始して12月分までそれぞれのカードを展開します。
小アルカナを用いることで具体的な情景も何となく程度に見せてくれます。とはいえカードは象徴ですから、はっきりとした予言がでるわけでもまたありません。どのような体験につながっているのか、その時がきたらわかるでしょう。

引いていただいたのは

●大アルカナでアドバイスや各月を象徴する意味合い
●小アルカナの数字のカードでその月の状況

ただし、小アルカナのコートカードについては人物の様子は、自分?他人?どんな人物か、そもそもコートカードを引くかどうかに関して決めるのは生徒さんにおまかせしました。

カードを開いた後の講座となる先日、1月も2週目に入って。

講座内で1月の感想をお聞きしてみました。12月にカードで予めひいた内容に、何か印象的な事柄は身の周りに起きたでしょうか?

それぞれのカードから生徒さんが独自に感じたことをお聞きするのは講師としてとてもワクワクする瞬間!

タロットに予言の的中を求められることが当たり前の昨今ですが、本来はそれよりも相談者がカードから気づきを得て運命のレールを少しずつ乗りかえていけることが大切だと考えています。

中でも今回は、その講座の生徒であるAさんの1月のカードと体感が印象的だったので、ご紹介しましょう。

Aさんのイヤーリーディング~1月~

12月の終りに、Aさんの2021年のイヤーリーディングの1月のカードとして出たのは「死」「カップの3」。※「死」は「死神」と呼ばれることもあるカードです。

大アルカナ「死」…死と再生。キーワードは終結や移り変わり、変容。本質が生まれ変わること。とてつもない力、取り去られるエネルギー

小アルカナ「カップの3」…チームワーク。ともに楽しむ。助け合う、絆を確かめ合う、等。

年賀状のデータが…?

 死のカードは一見ショッキングなものですよね。何か印象的なことはありますか?とおうかがいしますと、Aさんがまずお話しくださったのは…

あるハプニングで年賀状のデータがダメになってしまったこと。

「これまで整理し蓄積してきたデータが消失したためびっくりしたし、とても大変だったんですよ~」と。それでもカップの3で表される通り、遠方に住まうご家族も帰省され家族全員が揃って和気あいあい、楽しいお正月を過ごされたとのこと。(奇しくもカップの3の通り、ご家族は3人です)

「死のカードで思い当たることは年賀状のことぐらいしか無いんですよね…」と、Aさん。

うん、なるほど…中途で消えてしまうデータ。…

「ではそのデータはもはや必要のなくなったものと考えられますか?」とおうかがいすると、Aさんは「まさか!そんなことないんです」とおっしゃいました。

そうだ。大変な思いをしてデータを復帰されたのですからそれが当然です。いやほんと、愚問でした。


終りを迎える…終結…奪われる…取り去られるような大切な何か…手放し…まるで魂をそのままに肉体だけを脱ぐ、生まれ変わりのようなそれらを表す「死」のカードは、果たしてこのデータのハプニングを表すのでしょうか?

講師である私の頭の中も、さまざまな可能性がめぐります。普段のセッションであれば、ご相談者さまの閃きを最優先します。閃いたものがそれ、という場合が多いからです。

…しかしそれでも、やっぱりそれじゃないよと。違うことだと思うのよね、と私自身は感じました。年賀状のデータの状況と死のカードの含み持つ概念というか意味合いがつながらない。

ここで感じる「カン」というのはとても感覚的なものです。プロである鑑定士の脳内にある、カードを立体的に捉えた(ある意味ばっくりとした)象徴そのものに対する理解からくる違和感でしょう。鑑定ルームでのリーディングでもしょっちゅうこういうことが起きるので、未だに私もお客様を前にして、説明する言葉に困って焦ることすらあります(笑)。

「死」のカードが含み持つ様々なエッセンス

 様々な、なんて書きながらも、死のカードのミーニングはとてもシンプルなのです。もちろん和洋問わず、「愛用の家電などの寿命なんかを表すこともある」と書かれたタロットハウツー本もあるにはあります。しかし本来はもっと本質的な問題を象徴し、相談者に気付かせようとはたらきかけてくれるのがタロットカードリーディング。

これはあくまでも例えばですが、突如として住所録データがもうその相談者にとって終了せざるを得なくなった交友関係のものである…といったように、カードのニュアンスを非物質的な問題で捉えるリーダーの方が多いですし、今日ではもはやそれが当たり前になっています。タロットは相談者が考える必要がある問題を示唆してもらうためのツールとして存在してる。

そこを理解していないと「現実を伴った具体的な未来予知」が欲しくなったり、「タロットって所詮、しょーもない当て物なんでしょ」…になってしまうのです。

だから当然、死のカードが出たからといって実際に死人が出るわけではありません。それは2時間サスペンスか欧米ドラマのカーニバルのテントの下に並ぶ怪しい占いの屋台だけの話!(笑)

じゃあ、具体的には

アメリカのタロット研究者Mary K. Greer氏による『Tarot for Yourself Second Edition』 の中の、”13 the Death” を参照すれば、こう書いてあります。抜粋しての拙訳ですが、

過去との訣別。慣れ親しんだ習慣との痛みを伴う根絶、また、人生において人や物を手放すこと。親密な友情や交際の終わり。自分を解放する。外科手術 。意識の変化。新たな状態に突入する。新しい形への同化と統合

※突然現れる「外科手術」という言葉にびっくりしますが意外とそうでもない。言いたいことは理解できます。失ったはずの命を生き直すような…今までの自分とは違う、臓器移植みたいなイメージでしょうかね!?実際の手術のことかもわかりませんが(爆)

…とまあ一般的にこんな感じで捉えられることが多いカードですから、13番の死のカードは変容(トランスフォーメーション)、と解釈されて新たなタロットが発行されることも珍しくありません。例えば典型的なのは OSHO ZEN TAROT による13番。

カードリーディングができる人にはもうおなじみのニュアンスで、「はいはいわかった!」ってなる、非常に理解しやすいカードです。

実はとても身近なところに!?

「じゃあ何のことなんだろうね」と言いながら、タロットセッションをする時のようにAさんと話しながらも、他の生徒さんを交えてディスカッションしていきます。

すると自然と出た一言がリーディングの直接的な糸口になりました。

「息子がね、この1月に成人式で。我が家は今年のお正月はダブルでおめでたいんです。」とAさん。

じゃあ母であるAさんも、「ママ成人式」をお祝いしなくちゃ。子育てお疲れ様でした!!これからまた次の人生ですね~!
ショッキングに見える死のカードについて考えていた生徒さんたちの雰囲気もパッと明るくなりました。

…うわぁ、これでは!?

ある意味、生まれ変わりと言ってもいい、忙しい子育て時代の終り。大切な愛する子どもを眩しく見送る。世代交代。ここからは子どものためだけでなく、自分の人生を生ききる。極端な話ではカマキリのような虫たちは卵を産むと死んでしまう生き物もいるぐらいの世界観。

Aさんご夫婦はこの1月に、ご両親としての卒業をされたのでしょう。

じゃあ実際にどんなお祝いをされたかというと、父と母として本当にいつかご子息様が家から独立されるその時のために、夫婦で遺す物を入れる箱をご用意されたそうなんです。「箱」は器(うつわ)。器は女性性、女帝のカードのようなアイデアは母親であるAさんご自身の提案なのだそうです。

なんと素敵なお話!

上の写真はその箱の実物です。美しい~!!

後を継ぐ者に遺すシンボリズム

 さて、カルチャーセンターの講座で使用しているのは典型的なウエイトスミスタロット。そのタロットデッキは黄金の夜明け団という魔術結社の流れを汲んでいるので占星術にも対応しています。それでも本によって諸説あり、とことんまでどれが本当と特定するのも憚られるものの、一般的になっているのはやはり「さそり座」ではないでしょうか。
※この記事の最初に配置した写真でもさそり座(Scorpio)と記載があるのが見てとれますね。(写真の書籍は『The Quabalistic Tarot ~A TEXT BOOK OF MYSTICAL PHILOSOPHY~』Robert Wang 著)

西洋占星術を知っている人にとっては基本なのですが、さそり座といえば支配星は冥王星(生と死/始まりと終り/とてつもない力…の象徴)。そして何といっても今回想起せずにいられないのが、西洋占星術においてさそり座のナチュラルハウスが8ハウスだということ。

松村潔先生の『最新占星術入門』p.47において掲載された8ハウスの説明を一部抜粋してみましょう。
第8ハウス 死、遺産、セックス、継承、人格変容…(中略)…個人的な自我の死と再生に関わる分野を示します。支配したりされたりする関係が生じる他者、組織。資質が根底から生まれ変わるまでは逃れられない出来事など。また他人との関係で生じる金銭や精神的な価値も意味します…

そう、遺産、継承。8ハウスといえば遺すもの。暗記してると自動的にまず出てくる単語。
2021年1月を死のカードとして示された人の出来事としてこんなところまで美しく表現されるなんてと、私はドキドキして、この出来事をこうして記事で紹介せずにはいられない心境に!

死のカードは死なず、そこから後も続いていく

 これから少しずつ、いろいろと入れていくのが楽しみなのだそう。本当にすばらしいアイデアですよね。Aさんは現在の状態をどうぞ、と中も見せてくださいました。(ご了承を得て掲載しています)

価値あるお気に入りのブレスレットや母子手帳が入っていますね!正真正銘、愛情たっぷりですよこれは。ご子息様は必ずや喜ばれるでしょう!絶対うれしいはずだわ~!

改めまして成人式おめでとうございます!子育てのご苦労は測り知れません。Aさん、本当にここまでお疲れ様でした。Aさんご夫婦のこれからのまたもうひとつの新たな人生がはじまりますね。ご健康に恵まれ幸せいっぱいに末永く続いていかれますように、心よりお祈りしております。

※これらのリーディングはあくまでも一例にすぎず、同じカードが出ても全てがこのような解釈になるわけではありません。ご了承ください。

カルチャーセンターでのタロット講座について

基本的に第二/第四木曜日に、十字屋カルチャーセンター松井山手にて開催しています。講座にご興味のある方はまず体験講座を受講されてみてくださいね。

タロットへの第一歩、応援いたします。

詳細は⇒ こちら

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